横浜地方裁判所 昭和40年(ヨ)152号 決定 1965年8月10日
申請人 小島藤雄 外四名
被申請人 株式会社飯島機械製作所
主文
申請人小島藤雄、同浜田四郎、同新倉市敬、同吉光憲がいずれも被申請人の従業員たる地位を有することを仮に定める。
被申請人は申請人五名に対し昭和四〇年二月七日以降本案判決確定に至るまで毎月二八日限り別紙目録記載のとおりの各金員を仮に支払え。
申請費用は被申請人の負担とする。
(注、無保証)
理由
第一申請の趣旨
申請人等代理人は、主文同旨の裁判を求め(但し申請人山口を除く)、申請人山口金次郎につき、第一次的に主文第二項、第二次的に主文第一、二項掲記の各趣旨の裁判を求めた。
第二申請の理由の要旨
本件申請の理由の要旨は
「一 被申請人(以下会社という)は、光学レンズの研削機械の製造を主たる営業目的として肩書地にその支店(工場)を有し、申請人等はいずれもその従業員として同工場に勤務していた。
二 会社には、かねて総評全国金属労働組合神奈川地方本部飯島機械支部(以下第一組合という)があつたが昭和三八年六月一四日更に日本労働組合総同盟全国金属産業労働組合同盟神奈川金属労働組合飯島機械支部(以下第二組合という)が結成され、現在第一組合には二五名、第二組合には五〇名の会社従業員が各所属している。
三 申請人等はいずれも第一組合員で、申請人小島は現執行委員長、同新倉は同副執行委員長であり、同浜田は前副執行委員長であつた。
しかして会社は第二組合が結成されて以来、同組合員を第一組合員より優遇して差別待遇をして来たので、第一組合はこれを不当労働行為とし、昭和三九年二月神奈川県地方労働委員会に救済命令の申立をして現に係属中であり、更に同年の年末一時金支給についても第一組合と会社間にその査定金額につき紛争を生じ、その争議状態はなお未解決である。
四 会社は右争議中の昭和四〇年二月六日申請人等に対し、次のとおり解雇通告並びに退職勧告をし、同月七日以降同人等を従業員として取扱わず、その就労を拒否し賃金を支払わない。
(一) 申請人小島、同浜田に対しては「正当な理由なく無断欠勤、遅刻、早退が多く、著しく業務に不熱心で再三注意するも改めないとき」という昭和三八年一一月二二日改訂就業規則第六八条第一号(改訂前の就業規則第六四条第六号)による懲戒解雇
(二) 申請人新倉に対しては「仕事の能力が甚しく劣るとき」という前同規則第五三条第七号(改訂前の同第五一条第七号)による解雇
(三) 申請人吉光は従前第二組合員であつたが、昭和三九年七月六日同組合を脱退したところ、同月一一日同組合を除名されたため、会社と同組合間に存するいわゆるユニオンシヨツプ協定(統一労働協約第五条、第六条)に基づく解雇
(四) 申請人山口に対しては「老令で機械作業員としての激務を考慮すれば、その限度にある」という理由に基づく退職勧告
五 右解雇並びに退職勧告は、次に述べる理由により無効であるから、申請人等は依然として会社の従業員たる地位を有する。
(一) 右解雇並びに退職勧告の書面は、いずれも取締役飯島実名義で発せられたが、当時登記簿上の会社代表取締役は飯島武四郎であつて、飯島実は会社代表者ではないから、前記各書面による意思表示は会社の意思表示といえず、申請人等に対し効力を生じない。
(二) 申請人小島、同浜田、同新倉につき適用された昭和三八年一一月二二日改訂就業規則は、労働基準監督署に届出されてなく、右申請人等はその存在さえも知らない。
しかも同人等に同規則所定の前記解雇事由は存しない。
(三) 申請人吉光は第二組合を退脱した前記日時に直ちに第一組合員となつたものであるから、前記ユニオンシヨツプ協定が会社と第二組合のものである以上、第一組合員である右申請人には適用されない。
(四) 申請人山口には前記退職勧告がなされたのみで、同人は会社を退職する意思がない。
仮に右勧告が解雇の意思表示であるとすれば、右(一)、(二)の理由により無効である。
(五) 申請人等に対する本件解雇並びに退職勧告は、三項掲記の争議中になされたもので、会社が第一組合員ないし同組合の指導者的地位にある申請人等を排除することにより、同組合を弱体化しようとする意図を有すること明らかである。かかる意図の下になされた本件解雇並びに退職勧告は憲法第一四条、第二八条に違反し、更に第二組合員に比し第一組合員を不利益に取扱い不当に差別するものであるから、労働組合法第七条第一号、第三号、労働基準法第三条に違反し。且つ解雇権を濫用するものである。
六 申請人等の平均賃金(昭和三九年一一月から昭和四〇年一月までの三ケ月間の平均)はいずれも別紙目録記載のとおりであつて、その支払日は毎月二八日であるところ、申請人等はいずれも右各賃金を以て唯一の生活の資としている。従つて賃金の支払を得られぬ現在その生活は危殆に瀕し、申請人等が提起する地位確認等の本案判決の確定を待つては回復し難い損害を蒙る虞があるから申請人等(但し申請人山口を除く)は会社に対し主文同旨の裁判を求め、申請人山口は第一次的に主文第二項同旨の、同人に対する退職勧告が解雇の意思表示と認められる場合は、同人につき第二次的に主文第一、二項掲記の各趣旨の裁判を求める必要がある。」というにある。
第三当裁判所の判断
一 疎明によれば、申請人等はいずれも光学機械器具及び冶工具等の製造販売修理等を主たる営業の目的とする会社の従業員であつて、会社には当初第一組合のみが存したが昭和三八年六月第二組合が結成され、現在第一組合員は約二五名、第二組合員は約五〇名であること、申請人等は第一組合員で、申請人小島は同組合現執行委員長、同浜田は同副執行委員長であり、同新倉はかつて同副執行委員長であつたこと、第一組合と会社との間に昭和三九年末一時金の支給をめぐり紛争が生じ、未だに解決されていないこと、会社が昭和四〇年二月六日取締役飯島実名義の書面により、申請人山口に対し退職勧告、その余の申請人等に対し解雇通告の各意思表示をしたこと、申請人等はいずれも同月七日以降会社から就労を拒否され、賃金の支払を受けていないことが認められる。
二 申請人等は右解雇等の意思表示が会社のなしたものではないと主張するけれども、本件記録添付の会社登記簿謄本によると、会社代表取締役飯島武四郎は昭和四〇年二月一日に辞任して、同日取締役飯島実が代表取締役に就任し、同年三月一六日その旨の登記がなされたことは明らかであるところ、疏乙第一〇号証によれば、右会社代表者変更の人事は昭和三九年一二月一日頃既に会社において内定し、同日その旨会社から第一組合執行委員長申請人小島宛通知されたことを認めることができる。従つて第一組合員たる申請人等において、右変更登記以前に代表者変更の内容を了知していたものと認めるのが相当であり、右登記が遅れたとしても、飯島実が代表取締役に就任した昭和四〇年二月一日以降になされた、会社代表者を同人名義とする本件解雇等の意思表示は、申請人等に対する限り会社のなした意思表示というべきである。
三 申請人小島、同浜田、同新倉は、昭和三八年一一月二二日改訂の就業規則(以下改訂規則という)が労働基準監督署に届出されて居らず、その存在を知らないと主張するが、疏乙第一七ないし第一九号証に基づけば、会社は昭和三七年一月一日就業規則を制定し、右申請人等に対する解雇通告以前である昭和三八年一一月二二日に改訂して、同日藤沢労働基準監督署にその届出を出したことが認められるから、特段の事情のない限り右申請人等も右改訂規則を了知していたものと解するを相当とする。
四 そこで右申請人等に対する解雇事由の有無を検討する。前掲各疏明によれば、会社は無断欠勤、遅刻、早退が多く著しく業務に不熱心で再三注意するも改めないときその従業員に対する懲戒解雇権を有する(改訂規則第六八条第一号)こと、申請人小島、同浜田がこれに基づき解雇通告されたことを認め得る。そして疏乙第四ないし第七号証によると、昭和三七年一月から昭和三九年一二月までの間申請人小島、同浜田とも欠勤は各年平均一〇数日、遅刻、早退はそれぞれ相当回数していることが認められるけれども、これらがいずれも無断であること、遅刻、早退がのべ何時間になることなどの詳細な点並びに他の従業員に比し、著しく業務に不熱心であることの疏明が全くない。
従つて、右申請人等につき改訂規則第六八条第一号に該る懲戒解雇事由が存するとは現段階では認められないから、同人等に対する解雇は無効というべきである。
次に申請人新倉については、疏乙第八、第九号証によると、昭和三八年一〇月から昭和三九年一〇月までの他の従業員との作業能力比較がなされているが、同一日時における作業比較は全くないばかりか、いかなる状況の下でいかなる機械を用いてその比較を試みたかにつき何等疏明がない。更に疏甲第一四号証によれば、同申請人は胃潰瘍のため昭和三八年八月二一日から三ケ月間加療し、同年九月四日には胃切除の手術を受けているのであつて、その回復状態等を考慮すれば、右比較が果して適正妥当なものか疑がわしい。そうすると同申請人につき改定規則第五三条第七号に該る解雇事由の存在につき疏明がないものとして、同申請人に対する解雇は無効である。
五 疏甲第四号証、同乙第一一号証、第一五号証によれば、申請人吉光が昭和三九年七月六日第二組合を脱退し、同日第一組合に加入したこと、同月一一日第二組合が同人を除名したこと、会社は昭和四〇年二月六日第二組合との間に存する統一労働協約第二章(ユニオンシヨツプ協定)に基づき、同人に解雇通告をしたことを認めることができる。
ところで、会社と第二組合間にいかなる内容のユニオンシヨツプ協定が存したかにつき、何等の疏明もないが、仮に第二組合を脱退し又は除名された従業員を会社は必らず解雇する、という趣旨のユニオンシヨツプ協定が存したとしても、一項認定のとおり会社には第二組合と共に相当の組合員を擁する第一組合が併存し、申請人吉光は脱退と同時に第一組合員となつたのであるから、第二組合と会社との右協定は第一組合員となつた同申請人にその効力を及ぼさぬものと解する外はない。
蓋し、憲法の保障する団結権とは、個々の労働者が組織選択権行使の自由を有することを含むものであつて、この自由は未加入労働者であると、既加入労働者であるとを問わず等しく保有する。従つて既加入労働者がその組織を離れ、他の組織へ加入する場合でも従前の組織体から何等掣肘を受けるいわれはない。この意味からユニオンシヨツプ協定の適用を受ける組合員が当該組合を離脱した場合に、他の組合へ加入していない状態であれば当該協定の効力を及ぼし解雇できることは当然としても、解雇前に他の組合へ加入したときは、当該協定の効力はもはや離脱組合員に及ばぬというべきである。
そうすると、本件第二組合と会社との間に存するユニオンシヨツプ協定に基づく申請人吉光に対する解雇は、無効と解する。
六 疏甲第三号証によれば、申請人山口が老令を理由として会社から退職勧告を受け、会社は右勧告を解雇と同視していること、右申請人は会社を退職する意思のないことが認められる。
しかして退職勧告は、従業員の自発的退職を促がすもので、これに応じないからといつて直ちに解雇と同視さるべきものではない。何となれば、労働者に対する解雇は労働者の生活の基礎を失わせる重大な処分であるから、その意思表示は黙示では足りず、明示且つ確定的であることを要するからである。
してみれば、会社は右申請人に対し単なる退職勧告をなしたのみでその後解雇の意思表示をしないから、同人は依然として会社の従業員たる身分を有すると認める。
七 以上説示のとおり申請人小島、同浜田、同新倉、同吉光に対する解雇はすべて無効であり、右申請人等及び申請人山口はいずれもなお会社の従業員たる地位を保有するものであるところ、疏甲第八ないし第一二号証によれば、申請人等の昭和三九年一一月から昭和四〇年一月までの三ケ月間の平均賃金は毎月別紙目録記載のとおりであつて、その支払日は毎月二八日であること明らかであるから、会社は申請人等に対し本件解雇並びに退職勧告の翌日である昭和四〇年二月七日以降毎月二八日限り別紙目録記載のとおりの各金員支払義務を有するものといわねばならない。
しかして、前掲各疏明によると申請人等は特別の資産を有せず、会社から受ける賃金を唯一の生活源としている労働者であつて、従業員たる地位確認等の本案判決の確定を待つていては、その生活に回復し難い損害を蒙ること明白であるから、本件仮処分はその必要がある。
なお申請人等は疏乙第二〇号証、同第二三号証によると現在いずれも失業保険金の給付を受けているが、疏甲第一四号証の一ないし五に基づけば、それはすべて本件仮処分申請が認容された場合に返還することを条件とする仮給付であるから、右仮処分の必要性に消長を来たすものではない。
よつて、申請人等の本件仮処分申請は、いずれも理由があるからこれを認容することとし、申請費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり決定する。
(裁判官 石橋三二 土井博子 斎藤祐三)
(別紙省略)